• My Works, 映画 2009.06.04 コメントは受け付けていません。

     

    ・・・というわけで、前回の続きです。今回は映画本編について。

     

    先日のブログでも少し触れさせて頂きましたが、この映画はフィリップ・プティという
    フランスの大道芸人/綱渡り師のドキュメンタリー作品です。

     

    このプティさんという方は1974年に今は無きワールド・トレード・センターのツインタワーに
    ワイヤーを張り、地上からの高さ約400mの場所で長時間の綱渡り(45分間で8往復)を
    敢行したというとんでもない人です。あれは「芸」というより命を懸けた「アート」です。
    劇中でもWTCで綱渡りを敢行した時の写真が登場するのですが、この世のものとは思えない
    美しさと、死と隣り合わせの緊張感に圧倒されてしまいます。この映像だけでも必見かと。

     

    映画本編を見てみると、プティとその仲間たちは「WTCで綱渡りプロジェクト」を実行するため、
    それはもういろんな事をやったもんだと当時を振り返っています(彼らが見せる友情もこの映画の
    見所のひとつ)。

    身分を偽ってWTCの情報を集めたり、内通者/協力者と連絡を取ったり、立ち入り禁止の場所に
    忍び込んだり・・・と、彼らのやった事はほとんどスパイですな。あるいはオーシャンズ11ならぬ
    プティ’s 9とでも申しましょうか。プロの強盗集団と変わらないんじゃないかという感じです。

     

    「そこまでして、何でこんな事をやったんですか?」と誰しも思うでしょうが、プティは
    「その質問、聞き飽きた。理由なんてないんだ」と毎回答えているそうなので、本当の理由は
    この先ずっと分からないままだと思います。

     

    多分、理由なんかどうでもいいんだろうなと思います。人間、他人から見れば意味のない事とか
    無謀な事にアツくなる瞬間というのが誰でもありますが、そういうものに熱中した時の自分を
    振り返ってみると、そもそもの動機とか目的なんていうのは大した事じゃなかったりするわけで。

     

    この映画で最も胸を打つメッセージは、どんな突飛な事(あるいは無謀な事)でも本気で
    取り組めば、それは素晴らしいものになり得るのだという事でしょう。

    たとえ誰かにとって意味のない事でも、別の誰かにとってはすごく意味のあるものだったりも
    するわけで、言い換えればこの世に「意味のないもの」などないんですよ、と。だからどんな
    事であれ、物事に挑戦する気持ちを忘れてはいけない、とプティさんは教えてくれているのでは
    ないかなぁ、と思うのです。

     

    こういう言葉は文化人気取りのタレントとかコメンテーターとかに言われても、イマイチ説得力に
    欠けますが、プティさんに「人生は何でも挑戦する事に価値がある」と言われたら、そりゃもう
    「はい、全くその通りです!」と納得してしまうしかないでしょう。やっぱり事を成し遂げた人の
    言葉は含蓄と説得力がありますねぇ。

     

    映画は6/13から新宿テアトルタイムズスクエアにて公開。全国順次ロードショーで、仙台でも
    8月頃に上映予定との事(詳しくは公式サイトをご覧下さい)。

     

    それにしてもこの映画、マイケル・ナイマンの音楽と映像が絶妙にマッチしてますな。
    『ピアノ・レッスン』(93)や『英国式庭園殺人事件』(82)など、極めて個性の強い映画のために
    書き下ろした音楽が、綱渡り師のドキュメンタリー映像とここまで見事な融合を果たすとは、
    正直驚きでした。これも選曲の妙というやつでしょうか。

     

      

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  • My Works, サントラ, 映画 2009.06.01 コメントは受け付けていません。

     

     

    先日、綱渡り師フィリップ・プティの実像に迫る『マン・オン・ワイヤー』という
    ドキュメンタリー映画のサントラ盤のお仕事をやらせて頂きました。

    ユニバーサルミュージックからこの作品のサントラ盤がリリースになりましたが、
    音楽をあのマイケル・ナイマンが担当しております。

     

    担当、というのはちょっと適切な表現じゃないかもしれません。と申しますのも、
    この映画の音楽はナイマン本人の了承を得た上で、彼の過去音源を”再利用”する形で
    構成されているからなんです。

     

    なぜこういう構成になったのか、という経緯についてはプティとジェームズ・マーシュ監督が
    寄稿したライナーノーツに全て書いてあります。で、これがまた長い文章だったんだなぁ。
    その結果ライナーノーツの翻訳に文字数の大半を割く事になり、ナイマンの音楽について
    ほとんど言及出来なかったので、その分はここでフォローさせて頂きたいと思います。

     

    拙文も長くなりますが、しばしお付き合い頂ければ幸いです。

     

    マイケル・ナイマンといえば現代音楽の重鎮といった存在ですが、何となく見た目も
    気難しい英国紳士という印象を受けます(何となく、ですよ)。

    自分の音楽にも相当こだわりのありそうな彼が、よく音源の二次使用の許可を出したなぁ、
    と思ったのですが、考えてみればナイマン自身も自作曲を別の作品に”再利用”している
    ケースが過去に多々あったという事実を思い出しました。

     

    例えば『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)の「Memorial」という曲は、1985年にヘイゼル・
    スタジアムで起こったサッカーのサポーターの乱闘事件(いわゆる「ヘイゼルの悲劇」)の
    犠牲者に捧げた曲の一部だという話ですし、その『コックと泥棒・・・』で使われなかった音楽を
    『アンネの日記』(95)で使ったという記述もあります。また、フランス革命200周年記念の
    委託作品『La Traversee de Paris』には、『プロスペローの本』(91)で使われたスコア
    「Miranda Previsited」の原型となった曲が収録されています。

     

    果たしてこれは「曲の使い回し=手抜き」なのか? もちろん答えは「否」でしょう。

     

    ナイマンにとっては映画のために書き下ろした曲であれ、式典用の委託作品であれ、
    自分の作った曲は誰のものでもない自分の作品、という思いが強いのだと思います。

    もう少し飛躍させて解釈すると、「自分の曲をどう使おうと私の自由」という考え方を
    持っているのではないかと思うわけです。完成度の高い曲、思い入れのある曲なら、
    機会があれば他の作品でも積極的に使っていきたいと考えているのではなかろうかと。
    (実際、ナイマンの作品は名曲揃いですからねぇ)

    だから、ナイマンに自分の作品(映画とか)を気に入ってもらえさえすれば、
    比較的すんなり曲を使わせてくれるんじゃないかという気もします。

     

    実際、ナイマンのオフィシャルサイトで「Use a Nyman Track on Your Film」という企画を
    やってますし。これ、全国の映像作家の皆さんはチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

     

    ・・・というわけで、今回のサントラ盤は「フィリップ・プティが選ぶベスト・オブ・マイケル・
    ナイマン」みたいな内容になってます。2001年に発売されたベスト盤が最近は入手困難に
    なってきたので、今後手軽に入手可能なナイマン・ベストとして重宝されそうな気がします。

    トラックリストはユニバーサルのwebサイトをご参照下さい。

     

    ちなみに、今回のライナーノーツの翻訳は研究生時代にお世話になった東北大学文学部の
    原 英一教授(現 東京女子大学 現代教養学部教授)にお願いしました。ここで改めて
    お礼申し上げます。どうもありがとうございました。

     

    映画本編についてはまた後ほど。

     

    『マン・オン・ワイヤー』オリジナル・サウンドトラック
    音楽:マイケル・ナイマン、ジョシュア・ラルフ他
    品番:UCCL1143
    定価:2,500円

     

      

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